1997年11月〜
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エンジン開発履歴』 ちょっとした応援のはずであったが、量産立上げまで関わった!
ロードレース車開発部門から新たに出来たジェットスキー開発部門に転籍となる。
  ジェットスキーの開発は小型エンジン技術部門からオートバイ開発部門に移行されており、新たにジェットスキー設計経験者、新入社員が集められて新機種の開発が始まっていた。
  ジェットスキー用エンジンの排気ガス対策として、2stエンジンの気筒内噴射のエンジン
開発が進んでいたが、それに対抗する4stエンジンの基本設計を始めた。
  そんな折、別チームが設計を初めていた目標出力150psエンジンを搭載するマッスルクラフト艇、開発コード:118チームから応援要請が出て来た。
  118の基本構想は既に練られており、それに設計の一員として参加するだけと思っていたが、ジェットスキー用エンジンの開発経験がある設計者が居なくて、必然的に我が肩に多くの仕事が乗ることになってしまった。
エンジン形式の角期を向かえる。
  118への応援を頼まれる前には首脳陣の反対を押して4st4気筒1,500ccエンジンの試作を終えて、初期性能も取っていた。 会社としてはジェットスキー用エンジンの排ガス対策は2stDi(筒内インジェクション)で進む予定の様で、4stエンジンは相手にして貰えなかった。 それが118への応援に繋がった。
18日間の楽しい出張であった。
  点火系の不具合なら電装屋が行くべきなのに、何故か設計屋のおいらが行くことになった。 出張中の仕事内容は極薄であったが、プライベート的には楽しい日々が続いた。
Ultra 150
STX-R 1200エンジン開発


開発コード:118
点火系の失火不具合対策として現地でテスト確認を行う。
形式名 ”STX−R”、製品名 ”Ultra150”の ”150”は
船外機の名付けと同じくエンジン出力を製品名としていた。
当時の最高速度を発揮したジェットスキーだった。
以後にも ”Ultra”シリーズの新艇が発売されるが、エンジン出力を船名に使ったのは
”Ultra150”だけである。 後年、アメリカからPWC(ジェットスキー)の最高速度規制
106km/hが出され、PWC各メーカーは排気量、出力に関係なく最高速度を順守する様になった。
カワサキの威信を掛けてPWC業界最高速を狙って開発された為、当時主流の
3人乗りが2人乗りになり、最高船速を狙ったハル形状に波破性が不足し、
元カワサキの関係者ながら個人的には失敗作だったと思っている。
US出張中にお世話になった方々。 バギー関係で出張されて来たKHI社員2人も含まれる。
118の船体開発が行われているのはアリゾナ州の大河コロラド川の一郭にあるPWCの聖地 ”レイク・ハバス”である。
レイク・ハバスではPWCのワールド選手権も行われている。
アメリカでのカワサキR&Dはサンタ・アナにあり、
西海岸は近い所にある。 今回はダナポイントの漁港で
点火失火の不具合再現テストを行った。
ダナポイントに行く前に会社近くの採石場に出来た
淡水池で失火不具合の再現テストを行う。
英語が出来ないので、この会話にはまったく入れない。
サポートしてくれたのはアメリカR&Dに滞在中の元、電装部品を担当していた岩井君なので、おいらより電装部品には詳しい。
再現テストはよそにして、ジェットスキーをトレーラごと水に入れて、
船体を浮かべる作業に感心した。 本社ではトラック設置のクレーンで
揚げ降ろしすることが多い。
ダナ・ポイントには多くの漁船、レジャーボートが停泊
しており、それに見合った広い駐車場があった。
再現テストを西海岸のダナポイントの漁港に変更する。
日本語を勉強中のライダーが波浪の中で再現テストを行って
くれた。 不具合が再現するば後は対策方法を見付けるだけ。
昼飯、兼ミーティング中。
ダナポイントにも船舶揚げ降ろし用のスロープがあり、
力仕事は要らなくなっていた。 失火の不具合原因は見付かり、
対策方法も直ぐに見付けることが出来た。 何しにアメリカまで
来たのかと思う程に拍子抜けした。
人員補充の為にレーク・ハバスに行く便があるとの事で車に同乗させて頂く。
カリフォルニアからアリゾナへサボテンの生えた砂漠地帯を通り抜けて行く。
小さなポンツーンがテスト基地となっており、連日、ハルの形状を
変えて最高速度向上のテスト走航を繰り返している様だ。
我れ思うに平水域でのハル開発が間違いだったと思う。
平水域でハル形状のテストでは最高速は出たものの
波浪には弱い形状となっていた。
スピードガンを持つのがテスト責任者の藤井課長。
最高速度の向上に執念を燃やして何カ月も滞在している。
レイク・ハバス周辺には中華料理屋が1軒あるだけで、他に食堂もレストランも無いので、大体は自炊しているらしい。 噂に聞いていた素麺を土産に持って行くと喜ばれる! は本当だった。
メンバーは長期主張なのでホテルでは無く、アパートを長期契約していたので、家賃はビックリする程安かった。
行きはレーク・ハバスまで車に載せて貰ったが、
帰りは20人乗りの小型機で帰ることになった。
操縦席と乗客席との間には壁が無く、パイロットに手が届く席に座った。
開発コード:118のエンジン諸元は バランサー付き2st3気筒
総排気量1,176ccであり、最高出力は145ps/6,750psを発揮した。
シリンダを3気筒共通にする為か? 排気通路の処理がかなり
臭く思える。 おいらならEX。Pをセンター集合としたい。
船体のエンジン室は広いのでエンジンサイズに問題は
少ないのであるが、エンジン室への開口部が狭いので、
エンジンを開口部を通して積み落しするので、開口部を
通るエンジンサイズにまとめる必要がある。
これまでにも2st3気筒エンジンは量産されていたが、
バランサーを付けるのは118が初めてである。確かにエンジン振動は低減したが、個人的にはバランサーは必要無いと思う。
ヘッド、シリンダは3気筒独立として、同部品を使う。
エンジン回転数はインペラーと直結なので高回転化は出来ない。シリンダの排気タイミング、排気系のチューニングで
エンジンの低回転高出力化を狙う。
2軸モーメントバランサーの追加でエンジン振動を大巾に下げることは出来きたが、重量アップ、コストアップになりバランサー無しでもエンジンマウントの工夫で振動は抑えられたと考える。
吸気リードバルはクランクシャフトのウエブの
隙間に吸気が入る様に縦置き配置とした。
ゼネレータカバーを含め、カバー類はオーリングで完全防水
されている。おいらがパテントを取ったステータの水冷化は
省かれていた。 チクショー!
3連ダイヤフラムキャブのフューエルポンプは1ヶで済まさ
れていた。 船体がひっくり返ってもエンジンは廻り続ける。
手持ち写真が無かったのでネットから探して来ました。
設計計画図が手元に残っていないのでパーツリストで代用する。
不具合対策の仕事は片付いたのでPWCの聖地 ”レークハバス”に表敬訪問する。
北米を縦断する大河 コロラド川のハバスの川幅が広くなり、この箇所が ”レイク・ハバス”と
呼ばれており、ここでPWCワールドカップ選手権が開催されるのでPWCの聖地と呼ばれている。
解決された失火不具合とは・・・
  走航中に時々、失火することがあり、電装部品を
新品に変更しても失火は直らない。 本社から要員を送り込んで対策せよ。が、出張者の仕事だった。
  電装屋でも無い俺が何故? であったが、行けと言われれば喜んで行く方針であったが、スペアエンジン1台を手土産に持って行くことになった。
  3気筒エンジンに3つのIgコイルが取付けられており、セオリー通りに3本のハイテンションコードはクランプで離されていた。 偶然に見付かったのは3本のハイテンションコードを束ねると失火が止ったことでる。これは電装品配置ではタブーなことだった。
  改修費用の発生も無く、失火の不具合も解消されたので、これで出張の仕事は終わったことになる。
  お蔭で ”USH”に遊びに行く時間も取れた。