2005年〜

エンジン開発履歴』 1,000ccエンジンにS・Cを搭載してリッター300psへの挑戦が始まる。
開発コード:2101
スーパーチャージャーエンジン開発

ある日、本部長会議に呼び出される。
  本部長が部課長全員を招集するが、何故かおいらもその一員に呼ばれた。
本部長はS・Cエンジン搭載のバイクを作ると熱弁仕出し、目標は600cc300psだと
言う。 つまりリッター500psなのだ。 部課長は無責任に「面白いからやりましょう!」と賛同する。 こんな無理な仕事が自分に廻って来たら困るのではっきりと「それは無理です。出来ません!」と意見を言うと本部長から「出来ん奴は出て行け!」と罵声を受けたので、さっさと会議から退席することにした。 本部長は元エンジン設計者なのに何故リッター500psが無理な話しだと何故判らないのか? 部課長と違い組合員なので他部門に飛ばされることはないだろうが、これでS・Cの基礎研究からは外されるだろうと思った。  ところが、本部長会議には二度と呼ばれなくなったが、S・Cエンジンの基礎研究のメンバーに残ってしまった。 本部長もリッター500psは無理な話しと気付いたのか、
リッター300psの1,000cc/300psにトーンダウンしていた。
S・Cの設計はガスタービン事業部の研究部の支援を受ける。
  10倍速の遊星歯車を含め、S・Cのインペラー、ハウジングの設計は技術研究所が行ってくれる様になり、燃焼解析等も進めてくれた。
リッター馬力300psを目指して。
  多くのメカロスを伴うS・Cでは300psは無理っぽいのでメカロスの少ないT・Cを
所属長を介して本部長に提唱するが、本部長の趣味でT・Cはダメと返って来た。
  ならばと水冷インタークーラを同じく所属長を介して本部長に提唱するが、これもダメの返答が返って来た。 バイクに水冷インタークーラーが積めないと思っているらしい。
エコ過給エンジンに切替える。
  異常燃焼等で目標出力が得られていない中、過給によるエコエンジンへの切替え要請が来た。 あれ程リッター300psに拘っていたのに諦めが早いのではないか?
  エコターボエンジンはあってもエコS・Cエンジンは多大なメカロスが災いして成立しないと思っている。 意外とスーパーバイクエンジンの燃費が良く、S・Cエンジンの燃費はそれに敵わなかったのだ。 だからT・Cエンジンを推奨していたのに・・・
飛燕を見学して来いの指示が出るが・・・
  突然、関係者全員で岐阜工場に行って ”飛燕”を見て来い! の本部長指示が出た。
”飛燕”は戦時中に川崎航空機が開発製造したもので、高高度を飛べる様にS・Cを搭載していた。 当時の最新鋭エンジンとは言え、排気量約34L、出力1,100ps/2,400rpmはリッター出力 33psであり、現在のエンジン出力とは比べ物にならない程に低い。
車体設計者も含め、関係者全員で遠足の様に岐阜工場に ”飛燕”を見に行ったが、おいらは本部長に反発する意味も込めて遠足には参加しなかったが、行っておけば良かった。
水冷I・Cでリッター300psを得ることが出来た。
  過給圧を上げても異常燃焼で出力が出ないので、本部長からダメ出しされた水冷インタークーラを内緒で試作する。 事前に空冷インタークーラーも検討したが、S・Cは吸入側の圧損に弱く、吸気ダクトが複雑になる分、出力を得られないことが判っていた。
   車体に搭載出来る水冷インタークーラーは試作出来て、ベンチ性能が取れる段階まで来たが、上長が本部長に水冷I・Cが出来たことを報告すると、本部長からは水冷I・Cが気に入らないのかベンチ性能を取っても良いとの指示は出なかった。
  何でベンチ性能を取るのに本部長の指示を仰がなければならないのか?
水冷I・Cを諦めていた時、ベンチメカニックが折角試作品が出来ているのでと内緒でベンチ性能を取ってくれた。 結果、目標の300ps/13,500rpmを超えてしまった。
  それでも本部長からは水冷I・C採用の許可が出なかった。
ヒョウタンから駒。
  水冷I・Cでのベンチ性能測定の後、I・Cに冷却水を流さなくても280psの出力が得られる事が判った。 S・Cで過給され150℃にまで上昇した吸気がチャンバーを設けるだけで50℃程、吸気温度が下がることが判った。 おいらはチャンバーによる断熱膨張だと思ったが、技研の解析では原因が判らなかった。 水冷I・Cがダメなら吸気チャンバーを追及するしか出力アップの方法が無くなった。 以後、吸気系の圧損低減でどんどん出力アップが得られる様になった。 これでリッター300ps以上を得られる目途が付いた。
吸気チャンバーを大きくすると性能向上が図れることが判ったが、燃料タンクの容量が撮れなくなり、車体設計と揉めることになる。 燃料タンクは大夫小さくして頂いた。
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エアーファンネルに取付けた金網はダスト防止だけで無く、性能向上にも繋がった。
大きなエアーチャンバーは、実は水冷インタークーラ用に試作したものであったが、
インタークーラーが無くても性能向上に大きく貢献してくれた。
T/Mギヤはドックギヤで無く、ドックリングギヤを量産車では初めて採用している。
ここからは試作エンジンでは無く、量産立ち上がり後の写真を転用している。
インペラーは量産でもアルミ棒からの削り出しで、15分で1ヶが出来上がる。
10倍速遊星ギヤの写真がないのでネットで拾って来たイラストで代用します。 実際はヘリカルギヤとしている。
遊星ギヤの駆動チェーンとテンショナー、ワンウエイクラッチ。駆動チェーンとテンショナーの耐久性には苦労した。
設吸気は過給により150℃まで上昇するので
吸気チューブはフッ素ゴムを使っている。
写真のヒゲ親父がエンジン設計担当者らしい。
後日に段々判って来たのが、吸気チャンバー形状、特に吸気
ダクトの形状、配置がエンジン性能に大きく関わることである。
余談であるが、写真に写っているのは、元カワサキの
モトクロスライダーであった ”野宮修一”の息子である。
スロットルボディの上にインジェクターが
来るようにエアーボックスを設ける。
今後のベンチ耐久で壊れることを想定して
沢山のエンジンを組んでおく。
試作初期の吸気チャンバーは混合気配分の機能しか持ってなかった。
引っ張り荷重だけで選定したSC駆動チェーンの耐久性には苦労した。
性能向上の結果は
  2310NAエンジン:4st4気筒1,000cc 204ps/14,000rpm
  2101SCエンジン:4st4気筒1,000cc 300ps以上/14,000rpm
設計陣もベンチメカニックもSCエンジンの開発は初めてであり、
どこが性能アップに関わっているのかまったくの未知数であった。
通常、NAエンジンは排気系のチューニングで出力アップするが、
SCエンジンでは吸気系のチューニングが出力に大きく関わることを知る。
組み上がった ”2101”試作エンジンにラムエアーダクトとシートの取付確認を行う。
過給気、吸気系以外の多くの部品は ”2310”の量産部品を流用している。

リッター300psは司令塔のバカな趣味では?
  過給をすればする程出力が上がるものでは無く、過給温度が上がる為に異常燃焼が出て、出力は頭打ちとなってしまう。
  目標出力が出ないのを受けて本部長からもっとデカイ過給機を作って過給圧を上げよの指示が出たが、これは無駄な仕事と思い設計作業を断った。 その仕事は他の設計員に託され、試作品が出来て性能測定するが、STD品より出力は下がった。
だから無駄と行ったのに、これで判ってくれただろう。
  それを解決する為に水冷インタークーラを試作して出力も得られたのであるが、テストの許可すら下りなかった。 技術では個人の好みでスペックを決められるのは困ったものだ。 試作エンジンを通して過給エンジンは排気系には鈍感で吸気系に敏感なのが勉強出来た。 結果的には吸気系の改造、チューニングでリッター300ps以上を得ることが出来た。 この時のS・Cのメカロスは50psであり、エンジンとしては350psを発生していたことになる。 だから最初からT・Cで行きたいと言っていたのである。
S・C(スーパーチャージャー)は社内の技術研究所で設計して貰った。
後にインペラーの設計ソフトを借りて部署でも設計出来る様になった。