『エンジン開発履歴』 スノーモービル用エンジン開発を引継ぎ、それがジェットスキー用エンジンに繋がって行く。
スノーモービル用空冷2気筒2st440ccエンジン 開発コード ”X28”
技術部に入って最初の仕事はタイ向け船内機 ”KT300”のメンテナンスであったが、大した仕事量は無く、横で開発していた米国 アークティックキャット社のスノーモービルに搭載する
空冷2気筒2st440ccエンジンの開発を手伝いすることになった。 職級はまだまだ丁稚である。
試乗料金を払っても良いと思う程の楽しい仕事だった。
出張旅費が貰えて旅行が出来て、スノーモービルが乗り放題。 こんな楽しい仕事が世の中にあったのだ。 今回は電装部品メーカーのG測定が目的のテストだったので電装部品メーカーが宿泊費を出すと言ってくれたが、それを当社の責任者である係長が会社の規律からそれを断ってしまった。
勿体ないが、それが当然か。
米国、カナダにてスノーモービルレースが加熱する。
動くものがあればレースにしてしまうのがアメリカ人の気質であり、カナダを巻き込んだスノーモービルのレースが加熱する。 レース専用のエンジンとして水冷
2st4気筒800ccのエンジンをアークティックキャットに供給している。
汎用機エンジン開発部門とは。
基本的にイセキ、ヤンマー等の農耕機メーカーへの小型エンジン供給であり、
コストと耐久性が重視されたエンジン開発であったが、S・W用エンジン開発から
エンジン性能も重視される様になった。
開発コード X28
スノーモービル用エンジン
当時、米国、カナダではウィインターモータースポーツとしてスノーモービルが大流行しており、
米国のポラリス社と並んで アークティックキャット社もスノーモービルの一大企業であった。
開発業務としては設計、図面書きであるが、カワサキではベンチ性能、ベンチ耐久の現場業務も
自分で行う ホンダ、ヤマハには無い業務形態であり、自分でテストして自分で設計変更する楽しい仕事であった。
やがて米国ではスノーモービルレースがエスカレート仕出し、カワサキもレース用エンジンを新規製作してレースをサポートする様になった。
2st水冷4気筒800ccエンジンまで製作供給している。 エンジンの水冷化は冷却では無く、気温―40℃下での冷え過ぎを防ぐ為であった。
開発コード ”X28”に関する手持ちの写真は1970年に富士山の裾野である
御殿場スキー場にて電装部品に掛かるGを測定したものだけである。
部品メーカーの方々と
開発当時の写真、資料は何も残っていない。
スノーモービル用エンジン開発は趣味の一環として楽しく行っていたが、当時、写真を撮るとかデーターを残すとかは全て会社保管となり、何も個人で持つことはなかった。
俄かライダーに抜擢される。
技術部の中でもオートバイ開発部門には専門の走行ライダーが居たが、スノーモービルエンジンの開発は小型エンジン(汎用機)部門で行われた為、専用ライダーは居なかった。
そこで、当時、趣味でモトクロスレースをしていた小生に開発ライダーとしての責務が廻って来た。
後にも先にも1回だけの走行テストであったが、霧ヶ峰高原、富士山の裾野で開発ライダーとしてのテスト走行を行った。 目的は電装部品に与えるGの測定なので、走り回れば良いだけであった。
その気になれば富士山のてっぺんまで走れたが、
仕事なので自重した。
前日の ”霧ヶ峰スキー場”では地名通りに霧が出て何も
見えずにテストに成らなかったが、翌日の富士山では
ばっちりと晴れてくれた。
道交法的にはS・Mは普通免許で乗れるが、
富士山の裾野では運転免許書は不要では?
休憩時間に遊びまくる相棒。 ヘルメットくらいは被れよ!
スノーモービル用エンジンの手持ちの写真を
持っていなかったので、ネット検索で探して来た。
古いエンジンの写真ながら 開発コード:X28の写真が
ネット検索で見付かった。 2st2気筒400cc、シングル
キャブ、強制空冷2気筒エンジン。この写真を見て色々な
スペックを思い出すことが出来た。
同じくネットで見付けて来た ”X28”の分解写真。
冷却ファンが左端に付いている為、ヘッドのフィンは横を向いている。スパークプラグのくすぶり対策としてヘッドにスパークプラグが2本
取付けられる様になっているが、スパークプラグは1本で充分だった。
北米、カナダでは気温が−40℃まで下がることがあるらしく、強制空冷ではエンジンが冷えすぎるので、暖気の為の水冷化が
要望された。 2気筒エンジンであるが、ヘッドは1つである。
テスタータが取付けられる様になっているが、軽量化の為に
リコイルスタータとしているので、レース用スペックE/Gだと思う。
ネット検索で超貴重な写真が見付かった。 当時のスノーモービルレース用の
クラス別の新品エンジンの写真である。 まだエンジン設計が出来るレベルでは
無く、2st4気筒800ccのベンチ耐久当番をしていた。
霧ヶ峰高原、富士山裾野実走行テスト。